歯列矯正の痛みとは
※痛みの度合いは私の個人的なものです。
私は19〜21歳までの2年間、歯列矯正をしていた。
因みに私の歯並びというものは壮絶なもので、受け口と言って、下の歯列のほうが前に出ており、とどめと言わんばかりに右側の八重歯だけが奥に引っ込んでいた。
この受け口のせいで中学生の頃、口も聞いたことのない男子から「シャクレ」という不名誉な渾名を付けられたこともある。一生忘れねーぞ。
自分の歯並びが悪いと気がついた小学校低学年からずっと、歯を見せて笑うことができなかった。
歯医者で歯列矯正の症例です、とカタログを見せられても「私より酷い歯並びの人いないジャン…本当に治るのかよ…」と思っていたくらいだ。
さて、ひと口に歯列矯正と言っても色々な種類や装置がある。
今はマウスピース矯正、裏側矯正、セラミックブラケット(矯正器具が白くて目立たないやつ)などが主流だろうか。
私が歯列矯正を始める時代、セラミックブラケットはちょこちょこ見かけるものの、裏側矯正はまだ世間にそこまで浸透していなかったように感じる。
私がやったのは、皆さんが歯列矯正と聞いてまず思い浮かべるであろう、銀の装置を全部の歯の表側に取り付け、ワイヤーを通す所謂「ワイヤー矯正」であった。
私は何らかの知識で得た「裏側矯正」を希望していたし、表側にするならセラミックブラケットが良いんだケド…とそれとなく先生に伝えたが「いやあなたの歯並びですとセラミックブラケットや裏側矯正では10年くらいかかりますよ」と。
泣く泣くノーマルなワイヤー矯正にしたのだった。
歯医者というのはピンキリで、私の東京に住む従兄弟はマジで8〜18歳の10年間も矯正装置をつけていたので、先生の言葉がただの脅しじゃないということもわかっていた。
先述した通り、私は受け口だったので、装着までに下の歯を4本抜いた。
何故か幼い頃から歯茎への注射が大好きな私は(本当になんでだろう)そこまで苦ではなかったが、この抜歯という工程があるのも歯医者が苦手な人にとって、歯列矯正に二の足を踏んでしまう要因だろう。
こうした準備工程のようなものがあって、ようやくワイヤーを取り付けることができる。
初めて歯医者に歯列矯正の相談をしに訪れてからここまでで、大体半年ほどかかっている。
いよいよ装着当日、全部の歯に装置を取り付け、ワイヤーを通した直後から私を襲ったのは壮絶な痛みだった。
ものが噛めない。
喋るのも痛い。
眠っても痛い。
起きてても痛い。
歯を磨くのも痛いので、水以外一切口にできない。
これが、最初の1週間続いた。
バイト中(今でもよく覚えている、スーパーの銀だこの前だった)に栄養失調で倒れ、救急車で運ばれたところで「流石にスープくらいは飲まないと死ぬ」と気付き、徐々に色んなものを食べるようにはなったが。
因みに最後まで、肉、パスタ、ナッツは食べられなかった。
あとは、唇の裏がワイヤーで切れて口内炎だらけになる。
奥まで歯が磨けないので虫歯になる。
そしてこの痛み、何日くらいで治ると思うだろうか。
正解は「矯正器具が取れるまでの2年間ずっと」だ。
何故なら、1ヶ月に一回定期検診に行った時、ワイヤーをきつく締められるから。
このワイヤーを締める工程も思い出すだけで身の毛がよだつようなものであった。
「歯、折れるんじゃね?」「先生、私に恨みがあって、歯を折ろうとしてるんじゃね?」と思うくらい本気で痛い…というより、歯が折られるかもしれないという、経験したことのない恐怖。
こうして、慣れてきたかな?というところで、また初日の痛みに戻る。
2年間ずっとこれの繰り返し。
勿論、個人差はあると思うが、私の通っていた歯医者の先生は「絶対に2年間で終わらせてやる」という確固たる信念のもと私の歯列と向き合ってくれたので、とにかく四六時中ずっとずっと痛かった。
一年ほど経って歯が動いて来た頃、次に私に降りかかった災厄は「知覚過敏」であった。
動いた歯と歯茎の僅かな隙間に冷たい水が入り込むと、神経に触れて気が狂いそうな痛みが走る。
勿論アイスを食べるなんて自殺行為で、夏でも歯磨きの時は微温湯を使って、知覚過敏用の歯磨き粉を使っていた。
他にも、成人式の写真は全部ムッと口を閉じているし、カメラマンの方に「歯列矯正してる今の自分を記念に残しておこうヨッ」と励まされても絶対に口を開かなかった。
今思えば本当にカメラマンさんの言う通りだったなと思う。ニッカリ笑って写真に残しておけばよかった。
あと思い出深いことの一つとして、大学の友達にアーモンドチョコレートを貰ったことがあるのだが、食べられなかった。
正確には、口には放り込んだのだが、ナッツが噛めず、授業が終わって帰宅時間になり、家に帰るまでの3時間くらいずっと口の中にナッツが滞在していた。
さて、ここまで歯列矯正の恐ろしさや痛みについてずっと書いて来たが、勿論人生でやってよかったことランキングの一位も歯列矯正だ。
2年後、いよいよ装置が外れるかも…!?という時にはもう装置への愛着が半端なく、「私もうブラケたん(ブラケットのこと)と離れたくない!一生つけてても良い!」などと思っていたが、いざ外れる日を聞かされると「さっさと外れろ!どっかいけ!」と情緒不安定に手のひらを返した。
装置を外すと、今まで歯を支えてくれていたワイヤーが無くなったことで、歯が浮いたような感覚だった。
ガタガタ揺れたり抜けるんじゃないかと不安で、「先生!歯がハァ〜!歯がハァ〜!」と理解不能な悲鳴を先生にぶつけていた。
装置が取れた私の顎は引っ込み、横顔が明らかに綺麗になった。
受け口も八重歯も綺麗に治り、人前で歯を見せて笑えるようになったし、自分に自信がついた。
私のように2年きっかりで矯正器具が外れるのはどうやら稀らしく、5〜6年はかかるものらしい。(私調べ)(歯列矯正経験者の友達2人に調査)(母数少な)
私の友達然り、従兄弟然り、悲しいことになるべく治療時間を引き伸ばして金を毟り取ろうとする歯科医師が中にはいたり、やはりセラミックブラケットでは中々動かなかったりということもあるのだろう。
歯列矯正に興味がある皆さんに伝えたいのは、絶対に「ワイヤー矯正(表側)」をオススメするということ。
あと歯医者選びは慎重にということ。
コロナでマスクが手放せないこのご時世、歯列矯正をしてみるのはとても英断かもしれない。
最後に、料金について。
まず、装置が60万円ほど。
あとは、装着前の抜歯代だったり、月に一度の検診で1万数千円が24ヶ月分で30万円ほど。
それ以外のトラブル(虫歯など)や、歯医者のあのやたらめったら高い歯磨き粉を買ったり、うがい薬を買ったり歯ブラシを買ったりでトータル100万円弱だった。
是非参考にしてほしい。
P.S.無論、私ほど歯並びの悪い人がここまで劇的に改善したということで、症例写真をバチバチ撮られまくった。
もしかしたらあなたが手にする歯医者のパンフレットに、私の写真が載っている…かもしれない。
人生初のバリウム
会社の健康診断に行ってきた。
今回は人生初の、バリウムによる胃がん検査を受診するのでいつもより緊張していた。
まだ年齢的には受けなくても良いのだが、バリウムというものに興味があったのだ。
私は事前に、会社のお姉様方、お兄様方、母親、親戚等々、胃がん検査に長けている(?)先輩から情報収集を行っていた。
曰く、
「バリウムはまずい」
「バリウムは小麦粉を水に溶かしたような味」
「ゲップしたらバリウム飲み直し」
「バリウムはマシュマロをジュースにしたような感じ」
「最悪」
「2度とやりたくない」
「バリウムは耐えられてもその後の機械でグルグル回されるのが無理」
「思い出しただけで吐きそう」
「胃カメラの方が良くない?」
等、聞かなければ良かったと思うほど散々な言われようであった。
病院に到着した私は、受付で手続きをし、心電図、身体計測、採血などのいつもの項目を済ませ、待合室に戻った。
(と、サラッと書いてはいるが、バカでかい車に乗っている私は病院の狭い狭い駐車場で一悶着あってだいぶ遅れたのだ)
待合室には後輩の女の子がおり、私を見るなり「ウオオッ!」と手を振ってくれた。
「今日初めて子宮頸がん検診を受けるんです…痛いですかね?」
後輩の女の子はそう言って、不安そうな顔をしていた。
1年間で謎に3回も子宮頸がん検診を受けてしまった『子宮頸がん検診の達人』と巷で噂の私は、あまり痛いと感じたことはないのだが、痛いと感じる人の方が多いようなので「ウーン…」と答えた。役立たずである。
そんなこんなで、後輩の女の子と小声で雑談をしていると…。
「911番の方、お入りください」
胃部X線の部屋に呼ばれた。
下着に金具やプラスチックがついていると正常に検査ができないので、用意されていた薄ピンク色の服に着替え、先生の前に立つ。
「バリウムはね、お腹が膨らむので猛烈にゲップしたくなります。ゲップを出してしまうと飲み直しになりますので、頑張ってゲップ我慢してね」
そして先生から、白い粉の入った袋と、高千穂牧場カフェオレのような容器に入ったバリウムを手渡される。
「最近のバリウムは、味も飲みやすくなってますし、量も減りましたから、大丈夫ですからね」
2人の先生に懸命に励まされる。
一体どれほど恐ろしいのだ…!?
「まずはこの粉を口に全部入れてください。そしてバリウムを2、3口飲んで口を拭いてくださいね」
意を決して、粉を口に含む。
みなさんは、シャーベット・ペロという駄菓子をご存知だろうか?
味はあれの粉みたいな感じだ。
正直甘くて美味しい。
そして、いよいよバリウムを飲む時。
ゴクリ…。
「!?」
飲んだ瞬間、ゲップがしたくなるというより、急速にお腹が膨らんで激痛が走る。
肝心のバリウムの味は、乳酸菌というか…味の薄いヨーグルトみたいな感じだった。
思ったほどは不味くない。
いや、むしろ幼い頃「白ごはんにココアをかけたら美味しいかも♪」という無邪気な発想から生み出してしまったトラウマの化身『ココアゴハン』に比べればかなり美味しいぞ…!?
あっココアゴハン思い出して吐きそうになってきた…。
さて、ココアゴハンの話は置いておいて。
まだ一口飲んだだけなので、続けて少し飲まなければならない。
さながらチャーリーとチョコレート工場でガムを食って膨らんだバイオレットの気持ちだった。絶対違うけど。
なんとか腹痛を堪えた私は、次によくわからない機械の上に乗せられる。(本当に説明のしようがないくらいよくわからない機械なので、各々画像検索していただきたい)
そして先生が退出…。
部屋に設置されたスピーカーから、先生の声が聞こえる。
『機械が傾きますので、横の手すりに捕まって〜』
機械が動き出す。
ユニバのハリーポッターのアトラクションに乗ったことがある方にしかわからないと思うが…あんな感じである。
楽しい!
『はいそのまま右向いて2回転しますよー』
ゴロゴロ…。
楽しい!
『次は左を向いてー』
楽しい!
先生の声に合わせて、回転する機械の上で身体を回転させまくる。
機械の音がうるさすぎて先生の声が聞こえず延々と回り続けたりして、通常よりも長引いたが…。
『はい、もうすぐ終わりますからねー』
ええっ!もう終わっちゃうの?
というのは流石に冗談で、お腹が痛いので早く終わっては欲しかった。
三半規管が強いのか、目眩もなく、終始楽しいアトラクションに乗ったような気持ちで胃がん検査を終えることができた。
淑女たる私は、待合室でゲエエエッ!!とでかいゲップをするわけにもいかず、口の中にゲップを溜めて鼻から放出する作戦で小まめにゲップを解放していたが、勢い余って目からもゲップが出た気がして目が痺れた。
その後、下剤を貰って帰宅。
バリウムは身体の中で固まるらしいので、出ないと大問題なのである。
会社のお姉様方や母親から次々に連絡が来た。
「バリウムどうだった?」
私は「めっちゃ楽しかった」と返した。
「あれを楽しいって言う人初めて見たわ」と呆れられた。
そして現在、追い下剤をしてしまった私は(絶対に真似しないでね)トイレの中でこの文章を書いている。