人生初のバリウム
会社の健康診断に行ってきた。
今回は人生初の、バリウムによる胃がん検査を受診するのでいつもより緊張していた。
まだ年齢的には受けなくても良いのだが、バリウムというものに興味があったのだ。
私は事前に、会社のお姉様方、お兄様方、母親、親戚等々、胃がん検査に長けている(?)先輩から情報収集を行っていた。
曰く、
「バリウムはまずい」
「バリウムは小麦粉を水に溶かしたような味」
「ゲップしたらバリウム飲み直し」
「バリウムはマシュマロをジュースにしたような感じ」
「最悪」
「2度とやりたくない」
「バリウムは耐えられてもその後の機械でグルグル回されるのが無理」
「思い出しただけで吐きそう」
「胃カメラの方が良くない?」
等、聞かなければ良かったと思うほど散々な言われようであった。
病院に到着した私は、受付で手続きをし、心電図、身体計測、採血などのいつもの項目を済ませ、待合室に戻った。
(と、サラッと書いてはいるが、バカでかい車に乗っている私は病院の狭い狭い駐車場で一悶着あってだいぶ遅れたのだ)
待合室には後輩の女の子がおり、私を見るなり「ウオオッ!」と手を振ってくれた。
「今日初めて子宮頸がん検診を受けるんです…痛いですかね?」
後輩の女の子はそう言って、不安そうな顔をしていた。
1年間で謎に3回も子宮頸がん検診を受けてしまった『子宮頸がん検診の達人』と巷で噂の私は、あまり痛いと感じたことはないのだが、痛いと感じる人の方が多いようなので「ウーン…」と答えた。役立たずである。
そんなこんなで、後輩の女の子と小声で雑談をしていると…。
「911番の方、お入りください」
胃部X線の部屋に呼ばれた。
下着に金具やプラスチックがついていると正常に検査ができないので、用意されていた薄ピンク色の服に着替え、先生の前に立つ。
「バリウムはね、お腹が膨らむので猛烈にゲップしたくなります。ゲップを出してしまうと飲み直しになりますので、頑張ってゲップ我慢してね」
そして先生から、白い粉の入った袋と、高千穂牧場カフェオレのような容器に入ったバリウムを手渡される。
「最近のバリウムは、味も飲みやすくなってますし、量も減りましたから、大丈夫ですからね」
2人の先生に懸命に励まされる。
一体どれほど恐ろしいのだ…!?
「まずはこの粉を口に全部入れてください。そしてバリウムを2、3口飲んで口を拭いてくださいね」
意を決して、粉を口に含む。
みなさんは、シャーベット・ペロという駄菓子をご存知だろうか?
味はあれの粉みたいな感じだ。
正直甘くて美味しい。
そして、いよいよバリウムを飲む時。
ゴクリ…。
「!?」
飲んだ瞬間、ゲップがしたくなるというより、急速にお腹が膨らんで激痛が走る。
肝心のバリウムの味は、乳酸菌というか…味の薄いヨーグルトみたいな感じだった。
思ったほどは不味くない。
いや、むしろ幼い頃「白ごはんにココアをかけたら美味しいかも♪」という無邪気な発想から生み出してしまったトラウマの化身『ココアゴハン』に比べればかなり美味しいぞ…!?
あっココアゴハン思い出して吐きそうになってきた…。
さて、ココアゴハンの話は置いておいて。
まだ一口飲んだだけなので、続けて少し飲まなければならない。
さながらチャーリーとチョコレート工場でガムを食って膨らんだバイオレットの気持ちだった。絶対違うけど。
なんとか腹痛を堪えた私は、次によくわからない機械の上に乗せられる。(本当に説明のしようがないくらいよくわからない機械なので、各々画像検索していただきたい)
そして先生が退出…。
部屋に設置されたスピーカーから、先生の声が聞こえる。
『機械が傾きますので、横の手すりに捕まって〜』
機械が動き出す。
ユニバのハリーポッターのアトラクションに乗ったことがある方にしかわからないと思うが…あんな感じである。
楽しい!
『はいそのまま右向いて2回転しますよー』
ゴロゴロ…。
楽しい!
『次は左を向いてー』
楽しい!
先生の声に合わせて、回転する機械の上で身体を回転させまくる。
機械の音がうるさすぎて先生の声が聞こえず延々と回り続けたりして、通常よりも長引いたが…。
『はい、もうすぐ終わりますからねー』
ええっ!もう終わっちゃうの?
というのは流石に冗談で、お腹が痛いので早く終わっては欲しかった。
三半規管が強いのか、目眩もなく、終始楽しいアトラクションに乗ったような気持ちで胃がん検査を終えることができた。
淑女たる私は、待合室でゲエエエッ!!とでかいゲップをするわけにもいかず、口の中にゲップを溜めて鼻から放出する作戦で小まめにゲップを解放していたが、勢い余って目からもゲップが出た気がして目が痺れた。
その後、下剤を貰って帰宅。
バリウムは身体の中で固まるらしいので、出ないと大問題なのである。
会社のお姉様方や母親から次々に連絡が来た。
「バリウムどうだった?」
私は「めっちゃ楽しかった」と返した。
「あれを楽しいって言う人初めて見たわ」と呆れられた。
そして現在、追い下剤をしてしまった私は(絶対に真似しないでね)トイレの中でこの文章を書いている。